No.2 鮮度と安全性にこだわって

高田和明さん 鮮度と安全性にこだわって。
さらには季節感をお客様に伝えたい

農の達人リレーインタビュー第2回は、下集落に暮らしながら洋菓子店を経営する高田和明さん。

大規模な担い手農家ではないが、農がわかる事業家という視点で、語っていただいた。

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プロフィール
高田和明さん(53歳 平成19年10月23日現在)は高校を卒業後一旦は淡路で就職。3年後には淡路島の外で苦労したほうがよいと島を出た。ケーキの材料屋を営む親戚をたよって修業に入ったのが奈良・学園前駅にあった子会社のケーキ屋。そこで修業を積んで3年後には川西市にあった店をまかされた。その後一度学園前の本店に戻った時は26歳。
27歳で結婚。結婚を機に淡路島に帰る。一旦はケーキ屋を離れるが、30歳の独立を機に再びケーキ屋の道に。以来20年以上ケーキ屋一筋。法人化や店舗拡大をすすめながら現在に至る。 有限会社 たかた 代表取締役 従業員13名

まずは今年度下集落の農会長のお勤めご苦労様です。社長業との両立は大変ではないですか?

まぁきついとこあるわなぁ(笑)うちの場合はサービス業だから土日が忙しい。そこへもってきて町内会関連の行事は土日にある。確かに両立は大変。我々は自営業だから時間の融通がつくがサラリーマンの場合農会長を務めるのは大変じゃないかな。

さて先日の従業員芋掘り大会。従業員の評判はどうですか?

はじめは嫌がる。でも自然と触れ合うことで材料を大事にするようになる。それから独特の仲間意識が生まれる。友達でもない、同僚でもない、独特の意識やな。女子従業員は3年くらいでやめていく子が多いが、やめても思い出してくれるはず。

芋掘りをきっかけに新しい商品を考えるような意識の変化が見えてくる。材料を見る目も違ってくる。

高田さんは常に農業にかかわりながら、洋菓子屋を続けておられますが、そのルーツはどこにありますか?

そもそもは、淡路島に帰ってきて商売をはじめた25年前のこと。ケーキと言えばイチゴが大事。ケーキというのはイチゴが代名詞。まずはいちごの調達に悩んだことから。

当時、ほとんど九州産(一部四国)のいちごを使っていたけど淡路に入ってきたときには痛んでいることも多かったし、おまけに農薬もたっぷりと使われていた。

なんとか新鮮で、無農薬のいちごを使ったケーキを作りたかったけど、商売をはじめた当初は時間もなくそのままだった。

10年くらいは辛抱していたが、人が手伝ってくれるようになって時間の余裕がでてきた。そこで思いついたのがイチゴを自分で作ったらどうやということ。自分が納得できる新鮮で無農薬のいちごを作ってお客様に安心してもらえばええやないかと。

大事な食材を自分で作ろうとしたわけですね

そう。水耕栽培とか高設栽培とかいちごの新しい栽培方法を見て回ったりした。それから北淡路農業改良普及センターに自分でいちごを栽培できないか相談にいった。

ところが相談の結果わかったことは、商売を続けながら、副業としてイチゴの栽培をするのは無理だということ。いちごはほんまに手間隙のかかる作物や。

あっさりと夢は打ち砕かれましたか?(笑)

それならせめて安心なイチゴを作る農家を紹介してくれと。

そこで紹介されたのが洲本市五色町堺のいちご農家山城克己さん。当時、山城さんがイチゴの栽培を始めてまだ2年目くらいやったと思う、こちらから頼むまでもなく「やりましょう」と言ってくれた。減農薬についても最初からこちらの要望に耳を傾けてくれた。今は化学農薬の残留量を国基準の10分の一に抑える「ひょうご安心ブランド」も取得されている。

もともとここ鮎原はイチゴの産地ですが、なぜ山城さんから仕入れるのですか?

長年イチゴを作ってきた人たちは頑固。従来通りの作り方しかしてくれない。大量生産のためにはある程度農薬も使われている。品種に関しても、主流は単価が高い大振りのイチゴ。うちらの場合はそんな大きなイチゴは使えない。

山城さんにお願いしているのはサイズは不揃いでよいからできるだけ自然な状態のイチゴを届けてくれということ。

もちろん地元のイチゴを使いたいが、なかなかこちらの希望を受け入れてもらえなかった。

山城さんのいちごは完全無農薬ですか?

苗の時に消毒してハウスに移した後はほとんど消毒しない。土壌で作っている作物であるかぎり土の中にも菌があるのでまったく無農薬というわけにはいかない。

たとえ自分で生産していなくても山城さんのいちごであれば安心ですね

目の届くところで栽培するのが一番。山城さんの生産現場は頻繁に見に行っている。生産状況は随時お客様に伝えるようにしている。少々値段は高くても安心で新鮮ないちごを使っていることをお客様にアピールしたい。

ただケーキの最盛期は山城さんのいちごだけでは間に合わず、九州産、四国産のいちごも使っているけどね。

生産者側にも意識の変革が求められますね?

長年農業をやってきた人に山代さんのような栽培をお願いしてもなかなかやってもらえない。

職人というのはへんこつなところがあって自分のやり方は変えられないもんや。我々も職人やから百姓さんの気持ちはわからんことはない。 「お前とこに売るイチゴはないんよ」と突き放すんじゃなく、少しでも我々の要望に耳を傾けて生産してくれればメリットもあるんや。

たとえば山城さんの場合規格外のクズが出ない。安心で鮮度がよければ大きくても小さくてもうちが引き取るんやからな。それもキロ単位で。小さなものはジャムにすればいい。元からのいちご農家はパック単位で売ろうとする。

山城さんの農業を応援しているわけですね。

うちが消費するだけでなく、淡路島外の知り合いのケーキ屋を紹介して出荷もしている。農業している人が困るのが量をとってもらえなかったり、逆にもっとほしいと言われること。

いちごは山城さんから、そこでさつまいもを自分の手で作ろうと?

自分で食材を調達する夢を捨てきれずに、手始めに始めたのがサツマイモ。あずきも作ろうとしたが失敗した。除草が大変や。

さつまいもの去年の生産量は170kg。今年はもう少し少なかったけれども、この時期をお客様は待ってくれている。3時頃の焼き上がりの時間に合わせて来てくれるお客様もいるほど。秋はイモのお菓子が主力と言えるまでになってきた。

イモを仕入れれば5kgで約3000円。自分で生産すれば苗1本15円から20円。少しの手間で生産できる。コスト上のメリットもある。

今後自己生産したい食材はありますか?

果樹に挑戦したい。ラフランスやみかんの木。時間がかかるかもしれないがやってみたい。手伝ってくれる人が必要やけど。山城さんに持ちかけてみたら「桃を作ってみましょうか?」と言うもんやから「マンゴー作ったらどないや」と構想を練っている(笑)  果樹は先になるかもしれないけど、実は麦の生産を検討している。

麦というと小麦ですか?

そう。小麦。我々洋菓子屋の原料の中で小麦は重要。そいつをなんとか自分で生産できないかと。

色々調べる中で問題点が出てきたのが、淡路島で小麦を作ることは何の問題もないけど、小麦を粉にする製粉の過程に問題があることがわかった。

生産は出来ても製麦所がもうなくなってしまっている。そこで下集落のJA職員下森啓司さんに、製麦の機械をいろいろ調べてもらっているとこや。製粉機の目途がたてば、来年からでも栽培してみたい。

洋菓子屋さんが小麦を自己生産する例はありますか?

おそらくケーキ屋は少ないと思う。パン屋はあると思う。大分県かどこかで主婦が中心になって、ジャムを生産しはじめて、次は自分たちで作った小麦でパンを焼こうと、製粉機を購入した話を聞いたことがある。主婦の発想でもそこまでやれるんやから我々に出来ないはずがない。(笑)

自分で生産することにこだわるのはどうしてでしょう?

自分の目の届くところで生産したものは安心やから。

鮮度と安心な食材にこだわるコンセプトがあれば仕事にもやりがいが出てくる。

なんのために仕事をしているのか。何かこだわってやることによって、自分だけでなく従業員も意識が違ってくるはず。

それと季節感を大事にしたいからや

季節感と言いますと?

我々百姓が挨拶する時、「今年はどないや?」「今年はあかなんだ。(出来がよくなかった)」と言葉を交わすよね。お客様にもそんな風に語りかけるような商売をしたい。

もう少し具体的に教えていただけますか?

日本は、年中イチゴがあって、キウイでもマンゴーでもどんなフルーツでも世界中のものが手に入る。そうではなしに農業には豊作・不作があるように、ケーキの味も作物の出来が反映してもよいと思う。それが季節感やと思う。

お客様に「今年は暑かったからイモの出来が悪かったわ」と話ができるようなケーキ作りができたらなと思う。

無農薬・減農薬に関する情報もどんどんお客さんに伝えていく。対話しながら我々農に携わるものの役目として農薬だけが悪者ではないことも伝えていきたい。

「たかたのケーキ」では他にどんな淡路の食材が使われていますか?

いちご、いちじく、ブルーベリー、かき、温州みかん、れもん、ぶどう等。 りんごとかマンゴーは淡路では無理かな。

 

ケーキはけっこう淡路ならではの食材が使われてますね

食材はブランドやからな。例えばうちが使い始めた淡路島北淡のイチジクなどは今は芦屋などのケーキ屋にも出荷されるようになった。ブランド化すれば観光農園の展開も可能になる。イチジク狩りも盛況で、けっこう利益もあがっていると聞く。

ブランド化で農家との共存するような道はありませんか?

今までの農業のやり方では利益の確保がたいへんや。中間業者のマージンが大きすぎる。もちろん農家自身の売り方もへたやけど。ブランドを確立すれば直販の道もひらけてくる。

言い方が悪いかもしれんが、農業は金儲けをせなあかん。農業は文化。やめたらあかん。合理化もよいが、ええもんを作って儲けなあかん。

ケーキ屋さんとしてのこだわりを教えてください。

とにかくいつも目新しいものを作ってきた。25年前から淡路でおいしいケーキといえば「たかた」と言われるように努力してきた。

今洋菓子といえばフランス菓子が主流。どこの店でも真似してやっている。神戸でも東京でも同じ。うちがやっているような昔ながらのショートケーキは泥臭い・田舎くさいイメージがあってほとんどやっていない。

ショートケーキは日本オリジナルの日本人のためのケーキ。ショートケーキはフランスにはない。今はやりのロールケーキももともと和菓子。

昔ながらのショートケーキにはまだまだ地元の食材を活かす余地がある。フランス菓子とは違う日本のケーキを追求していきたい。

おいしいケーキを作れば、芦屋からでも大阪からでも来てくれる。これからは洋菓子だけじゃなく、「淡路の味」をアピールして、淡路に人を呼びたい。

「淡路の味」って何でしょう?

農産物の話ではないが、淡路と言えば海の幸。ところがなかなか地元の人達でさえ淡路の地魚が味わえない。神戸の魚市場を経由して淡路に卸したものを買って食べていたりする。流通路がおかしくなってるんやな。

仲間の料理屋の話やけど、地元の漁師に地で獲れた鯵(アジ)を出しても喜ばない。「大間のマグロ」を出せば喜んで食べる。これは漁師が悪いんじゃなくて料理人の怠慢。家ではできないようないわしの料理とかアジの料理を工夫したら喜んで食べてくれるはず。

この料理屋に東京の放送局の記者が来たときに、なんとか淡路でないと食べれないものでもてなせないかと思案の末、自分で釣ってきたものを料理して出すことにした。これがいちばん喜んでもらえると気づいたんや。これは一例にすぎないけど、淡路の人は島の外から来てくれる人をもてなす努力が必要。淡路には海も山もあるんやから。

「淡路に人を呼ぶ」努力が必要ですね

まずは淡路にいろいろな人が来てほしいと願う人が増えないとだめ。地域の人の協力も必要。田舎をアピールせなあかん。今の時代はネットの力も必要やな。  例えば、農村に増えてきた空家。古い池をみせたり田んぼ見せたり、空家を利用するとそこをベースに面白いことができる。でもそれを実現するためには我々商売人だけではだめ。行政のバックアップがないと前にすすまない。空家になった一軒家を借りてコース料理でも出せるようになれば面白い。

最後に「たかたのケーキ」は淡路島に2店舗を展開中ですが、我々の下集落に店舗なんてことは考えられませんか?(笑)

おいしいものを作れば都会の人はどこまででも買いに来てくれるのはわかっているが、多店舗にするとすべての店を見られない。人口比率とか最低売り上げとか考えないといけないことがいろいろある。採算ベースを考えると二の足を踏む。まぁ。いっしょに考えていかんか。

長時間ありがとうございました。今後の展開が楽しみですね。

 

淡路たかたのケーキ屋 本店
〒656-2131 兵庫県淡路市志筑3266-1
営業時間 9:00~20:00 (喫茶コーナーは18:00まで)
定休日/水曜日 TEL 0799-62-4144

淡路たかたのケーキ屋 洲本店
〒656-0026 兵庫県洲本市栄町2-3
営業時間 10:00~19:30
定休日/水曜日 TEL 0799-23-1322

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